僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……捜すって、なにそれ、意味わからないんだけど」
「だから、一緒に隼人を捜しに行かない? って言ってるの」
「……はあ?」
彼女がなにを思ってそんなことを口走っているのか皆目見当もつかない。けれど、階段下から注がれる視線はどうやら冗談の類ではないらしい。
久しぶりに業務連絡以外の会話をクラスメイトなんかと交わしたからか、歯切れの悪い言葉たちしか出てこないことを少しだけ恥ずかしく思う。
橘千歳———彼女は見る限り、いたって普通の人間だと思っていたのだけれど。
まさか、消えた——生きているのか死んでいるのかもわからないような——恋人を一緒に捜してくれだなんて言うような奴だったなんて思わなかった。
けれどよく考えて見れば、大切な恋人が突然消えたのだ。そりゃあ、普段と違った行動をとってしまうこともあるだろう。橘千歳だって困惑しているに違いない。だって、そうでなければ、一切関わりのない僕のような人間に、消えた恋人を一緒に捜してくれだなんて、頼むはずがない。
「……橘が気が動転してるのはわかるよ、でも…」
「私、別におかしくなんてなってないよ?」
「……」
「あの教室から誰かを連れ出していくなら、春瀬みたいに目立たなくてイイコちゃんの方がいいでしょ。先生達だって、春瀬が1日学校サボったくらいで何も言いやしないだろうし」
"春瀬みたいに目立たなくてイイコちゃん"
ほとんど初めてと言ってもいいくらいの会話で、その言いようはあんまりだ。
橘は要領がよくて頭もいい。何より機転が利く。それは、1番後ろの席からあの教室を誰よりもよく見渡せる僕にはよくわかっている。
けれど、こんな風にキッパリと物を言う奴だったとは思わなかった。いや、確かに橘の言い分はなにも間違ってはいない。少なくともあのクラスの成績順で僕はトップに躍り出るだろうし、常にじっと黙っている僕の性格を考えれば、先生群からの評判は良くもなければ悪くもないだろう。
つまるところ彼女が言いたいことは、「今から学校を一緒に抜け出すのに最適な奴」。それが正に僕だということなのだろう。