僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……橘は」
「え?」
「橘は、どんな子供だったんだよ」
中3の夏、僕はこの町へやってきた。よくある親の転勤。父親と僕の二人暮らし。引っ越しには慣れていた。もう何度も経験したことだったから。
僕も橘も、中3からの互いしか知らない。もちろん、僕が橘にとってただのクラスメイト、あるいはそれ以下の存在でしかなかったことは十分にわかっているけれど。
「私? 私も今と変わんないよー」
「ふうん、小さいころから能天気だったんだ」
「え?! 今バカにした!? バカにしたよね!?」
「気のせいだろ」
「ちょっと春瀬、ヒドくない?! これでも学級委員とかやっちゃってたんだからねー?」
「橘が学級委員とか、そのクラス大丈夫かよ」
「ちょ、バカにしてるよね!? ねえ、バカにしてるよね?!」
隣で起き上がる気配を感じて目を開けると、橘が僕を見て「春瀬ってほんとイヤミな奴だよね!」と頬を膨らませている。僕はそれを見て思わず「ふ、」と声を出してしまって、右手で口元を覆った。けれど笑いっていうのは自分で止めようと思ってもうまくいかないらしい。
「ははっ、」
「もうー、そんなに笑うこと? 春瀬って案外笑いのツボ浅いよねえ。いっつも仏頂面してるくせに」
ばふん、と再び橘がソファに身を任せる。左側が沈んだのを感じて、僕はやっと笑いを抑えることが出来た。
「まあでも、なんとなくわかるよ。今でこそ室長なんてジャンケンだけど、小学生の頃は目立つ奴の特権みたいなもんだったもんな」
「そうなのかなあ、私は何となくやってただけだけど」
「なんとなくでやれるんだから、橘は目立つ奴なんだよ」