僕らはきっと、あの光差す場所へ
えー? と橘が声を唸らせる。セミの声が少しだけ静かになったと思うのは気のせいだろうか。
「小学生のときはよかったよねえ。何も知らなくて、純粋でさ。毎日楽しくて、夢は叶うんだって信じたりして。……楽しかったなあ。」
まるで今が楽しくないような物言いに、顔だけ左側を向けて橘を見る。天井を見つめながら話す橘がやけに近く感じた。
「今が楽しくないみたいな言い方だな」
「そういうことじゃないよー。純粋に、あの頃は何も知らなくて、ピュアだったなあって」
「……ピュア、ねえ……」
「なによー。またバカにしてるでしょ」
「いや、そうじゃないけど」
純粋で、無垢で、ピュアだったんだろうか。巡らせる記憶の限り、僕は小学生の時から今まで、きっと何も変わってはいないんだろうと思う。
沈黙が続いて、突然僕の瞼はさらに重くなった。一度閉じてしまえばもう開かないんじゃないかと思ってまばたきを繰り返してみるのだけれど、やっぱり意識がどこか違うところにあるようで、うまくいかない。
「……春瀬は、夢、ある?」
「夢?」
「うん。小学生の頃言ってたような、純粋な夢。……ある?」
やけに真剣な橘の声と、セミの声が段々遠くなってゆく。閉じてしまった瞳はもう開けることはできず、ふわふわとした意識の中でかろうじて声を発す。
「……ないよ、夢なんか……」
そんな僕の言葉に橘は少しの真を開けて何かを言ったのだけれど、襲ってくる睡魔に勝てなかった僕の体はそのままソファに吸い込まれるように沈んで、意識はそこで途絶えた。