僕らはきっと、あの光差す場所へ






「あー涼しい! 最高ー!」

「めっちゃ暑いんですけど……」

「ねえ、溶ける! 溶けるから早く出して!」

「あーもうはいはい」


 あの小屋がある林を後にして、数分自転車を漕いだ。真昼間よりも暑さはやわらいでいたけれど、一時間も寝ていたせいで全身に汗をかいてしまって肌に張り付いた制服が気持ち悪い。

途中、橘がどうしてもアイスが食べたいと駄々をこねたので遠回りをしてコンビニへ寄った。店内はクーラーが完備されていて天国だったのだけれど、橘が急かすものだから数分しか滞在できなかった。

橘は好きだと言っていた100円のソーダアイス。僕もそれにしようと思ったのだけれど、橘の真似をしているみたいで癪なので120円のスーパーカップを買った。濃厚バニラ味。スプーンを二個頼んだ僕はもうちょっと橘に優しくされてもいいと思う。

それらふたつをビニール袋に入れて数分。近くの川まで自転車を漕ぐと橘は「ここ!」と言って僕を無理やり止めた。そのまま川沿いに植えられた木の下へ座り込んで、木陰で僕を手招いている。


「あー、やっぱちょっと溶けちゃってるよー! はやく食べなきゃ」


袋から取り出したソーダアイスはボタボタと溶けだしていて、橘はそれに舐めるようにかぶりついた。シャク、シャク、と夏の音がする。

僕はその隣でスーパーカップのふたを開ける。予想通り溶けだしたバニラアイスが溢れそうで、スプーンですくうというよりはカップに口をつけて溶けた部分を吸い込む。


「はーるせー」

「何。ひとくち?」

「えっ、なんでわかったの!」

「なんとなく。てか溶けるよ、ソーダ」

「うわわ、ちょ、やばいやばい」


慌てて食べかけのソーダアイスにかぶりつく橘を見て思わず笑ってしまう。それにつられて橘も笑うから、バニラアイスをのせたスプーンを手渡してやる。僕は橘に手渡したつもりだったのだけれど、橘は躊躇いもなくそのスプーンへと口を寄せた。


「おいっ、そのまま食べるなよ!」

「だって今これ手放したら溶けちゃうじゃん! てかバニラ美味し!」


そういう問題じゃないだろ。

せっかくもらってきたふたつめのスプーンは無駄になってしまったし、恥じらいも躊躇いもない橘の行動には時々ビックリさせられる。僕が単に人間と言うものに免疫がないだけなのかもしれないけれど。

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