僕らはきっと、あの光差す場所へ
「わ、意外とつめたい!」
アイスの棒を川の水につけたと同時に、橘が嬉しそうに声を出す。ベタベタになっている棒を洗おうとしたのだろうけれど、それ以上に水の冷たさにテンションが上がっているらしい。
橘がはしゃいでいる間に靴と靴下を脱ぎ捨てて、制服の長ズボンを捲り上げた。片足を水面にすべらせると、ジャブ、と案外大きな音をたてる。
その音で気づいたのか、橘がこっちに振り返る。元々大きな目をさらに大きく見開いて僕を見て、心底驚いたような顔を向けるから「なんだよ」と言ってやった。
「だって春瀬が自分から川に入ってる……」
「ダメなのかよ」
「だって、あの春瀬だよ? 体育もやらなければ人と遊んでるところなんて見た事もない春瀬がだよ? 自分から私と遊ぼうとしてるじゃん!」
「いや、遊ぼうとは思ってな……」
「私も脱ぐ! あ、これここに置いといたら乾くよね? カーディガン濡れそうだから一旦はずすよ?!」
僕の話に聞く耳なんて持たず、心底嬉しそうに橘が靴と靴下を脱ぎ捨てた。
近くにあった大きな石の上に僕のカーディガンと洗った棒を無造作に置いて、僕と同じように川の水へと足をすべらせる。
透明で透き通ったこの川は町中につながっていて、水が綺麗なことがこの町の自慢らしい。これだけ田んぼがあるのだから、そりゃあ水も綺麗なんだろう。
つま先から伝わる水の温度はひんやりして気持ちがいい。汗をかいた全身からスッと気持ち悪さが抜けていくような感覚。
上を見上げれば西に傾いた太陽が、まだ眩しく僕らを照らしている。手を掲げてみるけれどやっぱり太陽光は白色だと思う。朝と同じだ。けれど確実に違うのは、僕と橘の関係と、僕の中にある気持ち。
橘が笑ってくれていたらいいと思う。
人と笑いあうことなんて忘れていた僕が笑えたんだから、橘はきっともっと輝いた笑顔を見せられるはずなんだ。
唐沢隼人を捜す———その行為が彼女の慰めになるのなら、そんな一日も悪くないって、やっとここにきて、僕は思ってるんだ。