僕らはきっと、あの光差す場所へ
「意外と浅いんだねえ、ここ」
「ああ、それに水が綺麗」
「ね! 一回ここで遊んでみたいと思ってたんだよねえ」
足でバシャバシャと水を蹴りながら、無邪気な笑顔で橘が笑う。それは、僕の自意識過剰でなければいつも教室で見せる笑顔とは大分違うと思う。
「何でここに来たかったの」
「え? だから、一回ここで遊んでみたかったんだってばー」
「来たことなかったってこと?」
「ううん。一回自転車で通りかかったことがあってね。あ、モチロン隼人とだけど。そのときは秋だったし時間がなかったから本当に通りかかっただけなんだけど、枯葉が水面に浮かんですっごい綺麗だったんだよー」
バシャバシャ、蹴った水面が水しぶきをたてて揺れる。水の波は円になって広がって、少し離れた場所にいる橘まで届きそうだと思う。
「……へえ。自転車の旅、よくしてたんだな」
「そうだねえ……よくしてたよ。だってこの町、交通手段あんまりないじゃない?」
「まあ、そうだけど」
わざわざこんな何もない場所まで自転車を漕いでやってくるなんて僕には到底理解しがたい事だけれど、他人のことはわからなくて当然なのかもしれない。橘のことも唐沢のことも、僕は何ひとつ知らないのだから。
「高校生にもなって川に入りたいのなんて私たちくらいかなあ」
「そうでもないだろ」
「ホント? ミサもユウカも私が川に入りたいだなんて言ったら、きっと足が汚れるから絶対ヤダって言うと思うんだけどなー」
「そりゃあまあ、そこら辺はそうだろ」
「えー、何それ、偏見だ」
「じゃあ、橘たちは放課後いつも何して遊んでるんだよ」
「放課後かあ……コンビニに寄ったり、ファミレス行ったり、電車に乗って隣の市までいったり、いろいろかなあ」
「女子高生だな」
「女子高生だもん」
こんなに田舎でも、きっと都会の女子高生と何ら変わりないんだろうと思う。やることもやりたいこともきっと同じだ。橘千歳は、違うのかもしれないけれど。
「逆に春瀬はいつも何してるの? ひとりで」
無駄に『ひとりで』の部分を強調して悪戯っぽく笑う橘は相当質(たち)が悪い。
バシャバシャと水を蹴っていた足がつかれたので川辺の石に座り込む。足だけ浸かった水面はゆらゆらと揺れて、足の輪郭がぼんやりとぼやけた。
橘はそんな僕を見て「体力ないなあ」なんて笑うけれど、ずっと自転車を漕いでいる僕と後ろに乗っているだけの橘じゃ体力の消耗度が全然違うだろ、と心の中だけで悪態をついておく。
「放課後は、テキトウに過ごすよ。学校の図書室か図書館か、どこか静かなところへ行って、勉強したり本読んだりしてる」