僕らはきっと、あの光差す場所へ
太陽光に照らされてキラキラと光る水面に手を伸ばしながら、橘は言った。小魚たちは群れを崩して身を翻す。パシャンパシャンとところどころで水が跳ねた。
随分とグローバルな考え方だ。けれど、すごく橘らしいと思った。橘なら、世界中の人とコミュニケーションをとれそうだと、純粋に僕はそう思う。
「……いいと思う。そういうの、大事なんじゃない」
「え、なにが?」
「そういう、好きっていうの、……自分にはないから、純粋にすごいと思うよ。それに、合ってると思う。将来、英語使って世界中回ってそうだよ、橘は」
それは僕の本心で、すんなりと口からこぼれ落ちてしまったようなものだったのだけれど、意外にも橘は目を丸くして、珍しく恥ずかしがるように照れ笑いを浮かべた。
そんな反応に僕も戸惑いを隠せなくてやるせない。橘という人間は本当に意味がわからない。どうしてこんなことで照れるのだろう。
「そんなこと言ってくれたの春瀬だけだよー。ははっ、もう、やめてよ、恥ずかしいなあ」
「いや、意味わかんないから。てか思ったことそのまま言っただけだし」
「あのねー春瀬。私さ、本当は英語もっと勉強して、春瀬が言ったみたいに世界を飛び回って、いろんな人と関わってみたいんだ」
どうして春瀬はわかっちゃうのかなあ、と続けた橘は、遠慮がちに目線を下げた。いきなり何を言いだすかと思えば、明るい口調とは裏腹な表情を浮かべている。
そういえば、さっき眠りにつく前、橘は僕に『夢がある?』と問いかけたような気がする。僕はそれに『夢なんてない』と答えたけれど、その先の記憶は眠りに落ちてしまったせいで曖昧だ。
けれど確か、僕の答えに、橘は何かを言ったような気がする。あれは、どんな言葉だっただろう。