僕らはきっと、あの光差す場所へ
「春瀬は、ないの? 好きなこととかやりたいこととか」
唐突に上から落ちてきた言葉に視線をあげると、いつの間にか僕の目の前まできていた橘がまた悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
いつの間にか真っ青だった空にいくらか雲が浮かんでいる。
「別に……特にないよ」
「そんなに何でもできるのにー?」
ザブ、ザブ、音をたてて二三歩進んだ橘は、僕の隣の大きな石へと腰を下ろした。同じように、足だけ浸かった状態でパシャパシャと水面を揺らす。
〝何でもできる〟という言葉は、僕にはどうもうまく呑み込めないものだ。だって僕は、勉強以外〝何もできない〟。
「……勉強ができたって何の役に立つわけでもないし、橘みたいにやりたいことや好きなことが明確なわけでもない。何もないよ、僕には」
風が僕の声をさらっていった。ジリジリと焼き付いてくるような太陽の光は弱まって、変わりにどこからやっていたのかいつの間にか灰色の雲が空を覆いだしている。
川の水の温度はずっと浸かっているせいでぬるく感じるし、乾いた汗のせいですこしだけ肌寒いような感覚。じめっとした感覚は気持ち悪いけれど。
「……そうかな」