僕らはきっと、あの光差す場所へ
———唐沢隼人と橘千歳は恋人じゃなかった?———秘密を共有する仲間だった?
混乱する思考の中で、視線をあげた先にいるまっすぐな瞳(め)をした橘の顔は今まで見たどの表情よりも真剣だった。
———唐沢隼人と言う人間は、いつだって周囲の輪の中心にいて、なんでも卒なくこなす要領のいい奴だった。運動はずば抜けていたし、勉強だってすごく出来たわけではないけれどかなり上位にはいたと思う。そして何より、彼が笑うとその笑いは海が波打つように広がって、右へ左へと伝染していった。唐沢隼人は、そんな奴だった。
けれど同時に、あいつはいつもどこか一線を周りに引いていたと思う。
それは、例えば誰よりもあいつの近くにいたであろう橘や、あいつのことを馬鹿みたいに気にしていた僕ぐらいにしかきっとわからないほどの、一線だったと思う。
けれどいつだって僕はその一線に触れるどころか近寄ることさえもできなかった。
あいつがまるで昔の『僕』のように、あるいはそれ以上に、見えていたからかもしれない。僕を軽々と追い越していったあいつのことを、僕に気づくことさえしなかったあいつのことを、心のどこかで憎んでいたからなのかもしれない。
でもきっとそれ以上に、これ以上何かを失ってしまいたくなかったんだ。僕はとても弱くて愚かだから、あいつと僕とでは何もかもが違うと、関係ないのだと、そう繰り返しながらあの狭い教室の中息をしてきたんだ。
「……僕が話したら橘は本当の話をしてくれるの」
まっすぐな瞳をした橘は、視線をそらさずにコクリと頷いた。僕はそれを見て一息吐いてから、ゆっくりと目を閉じる。
「———〝春瀬光〟は、僕の双子の、弟、だった」
それは、僕と唐沢隼人———いや、『春瀬隼人』と『春瀬光』が〝入れ替わる前〟の、まだ幼くて無垢で純情だった、僕らが〝ちゃんと僕ら〟だった頃の、色あせた話だ。