僕らはきっと、あの光差す場所へ
橘千歳は黙り込む。揺れる彼女の視界に僕は含まれているのだろうか。
一時間目が始まるまで、あと三分。
三分の間に、僕は彼女を説得して教室へと連れ戻すことが出来るだろうか。消えたクラスメイトを捜す———ましてやその恋人と一緒にだなんて、頼まれたって誰も頷きやしないだろう。第一、僕には何の関わりもないのだ。そう、何も。
「……隼人は、自分から消えたりなんかしないよ。……理由が、なければ」
弱弱しく。
それでいて、力強く。
矛盾しているかもしれない。けれど彼女は、弱弱しく、力強く、そう言った。
唐沢隼人が、自分から消えるはずがない、と。
「……じゃあ、なんでいなくなったんだよ」
「……それはわからない、でも、」
「どっちにしたって僕らがどうにかできることじゃない」
「でもっ……」
このままじゃ埒が明かない。しょうがないけれど、彼女の横を通り抜けて、一人教室に戻るのが最善策だろう。これ以上関わるのはよくない気がする。
黙りこくる橘を通り越そうと一足踏み出すと、スリッパと廊下がこすれてキュッと音を立てる。この先にある教室に向かうためだ。橘には悪いけれど、こんなことに付き合ってられるほど僕は優しくない。