僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……春瀬は、いつも周りを見てるよね」
何も言わない橘を置いて、教室へ戻ろうと歩みだし、ちょうど、彼女の横を通り越したとき。
低くも高くもないちょうどいい声が廊下に響く。僕の足はピタリと、橘のその言葉に自然と止まった。
「……だから、なんだよ」
「春瀬なら、何か知ってるんじゃないかって思った。春瀬なら、何かわかるんじゃないかって思った」
通り越した彼女の方を振り向くと、橘千歳は今にも泣きそうな顔をしていた。握られた拳はふるふると震えている。
「……買い被りすぎだ」
「そんなことない、春瀬だってわかってるはずだよ。隼人が消える理由なんてないって、春瀬ならわかってるはずだよ……!」
「……」
窓際の列、一番後ろ。そこは僕の定位置だ。
うちのクラスの担任が決めた成績順の座席配置。後ろから成績順に並べられて、一番後ろは優秀な奴の特等席だった。僕は一度だって、その責席を誰かに譲ったことはない。
授業中も、放課の時間も、いつだって一番後ろからクラス中を見渡せる。あのクラスのことを一番よくわかっているのは僕だとさえ思う。
確かに僕はいつも周りを見ているし、誰が誰とどういう関係なのか、何をしようとしているのか考えるのが好きだ。橘の言う通り、唐沢隼人が自分から消える理由なんてどこにもないことくらい、本当はわかっている。
「……今日一日捜したとして、唐沢が見つかる保証はどこにもない」
「それでもいいよ……。初めから、そんなカンタンに見つかるわけないって思ってる」