僕らはきっと、あの光差す場所へのレビュー一覧
唐沢隼人が消えた。そして、3人の物語がまわり始めた。 冴えない“僕”と、いつだってクラスの中心にいる橘。ちぐはぐに見えるふたりが夏のなかへ飛び出した瞬間、その長い一日は幕を開ける。 肌に真夏の温度を感じ、目には田舎の景色が浮かぶ。自転車のホイールがまわる音が聴こえる。ふたりの共有した時間が、ページを進むごとにたしかな熱を持っていく。 消えてしまった彼と、残されたふたり。 ハヤトは誰なのか?ヒカルは誰なのか?そして橘はなにを知っているのか。 彼の消えた意味が明らかになったとき、運命の残酷さと、世界の優しさを思い知る。 「いらない明日を捨てに行く」 それは、絶望ではなく、たしかに希望の言葉だった。 絶望を捨て、希望をつかまえたふたりとひとりの生きていく明日は、違っているようできっと似ている。見たこともないような新しい色をしている。 圧巻の物語です。ぜひ、夏のあいだに読んでほしい。
ある日突然、クラスメイトの唐沢隼人が消えた。 騒つく教室でただひとり無関心でいた僕に声をかけてきたのは唐沢の彼女、橘千歳だった。 『ねえ、私と一緒に、隼人を探しに行こうよ』 ▫︎ 前半は穏やかに時間が流れる。 小さな田舎町の風景は始終美しく丁寧に描かれていて、まさに〝書いている〟よりも〝描いている〟という表現がぴったりだと思いました。 一字一句、見逃してはならない。この物語は大切に大切に読まなければならない。そんな気持ちで、二人と同じ時間を共有するようにゆっくりと読み進めました。 しかし物語の半ば、ある一文からは、物語が急速に進み始め、次に次にとページをめくる手が止まりまらなかった。綺麗事で丸く収めたようなものじゃなく、まるで抱きしめるように優しく力強いラストには、私も勇気をもらいました。 明日を迎えるのがどうしようもなく嫌になってしまったとき、私はこの長い一日を思い出したい。
ある日突然、同じクラスの唐沢が姿を消してしまった。そして僕は、唐沢が姿を消したその日、同じクラスの橘と、唐沢を探す旅に出る。 「輝いているときに惹かれるのは、幻想かもしれないね」 そう呟く彼女には、なにが見えているのか。そして、唐沢はなにを見て消えたのか。消えた唐沢の想い、橘の想い、そして僕。 明日を生きていくために、僕たちは長い長い1日を、振り返りながら全力で走ったんだ。 * 彼ら3人の気持ちの描写、そしてそれを包み込む背景、情景、すべてのものが作者の巧みな文章によって鮮明に描かれています。 唐沢はなぜ消えたのか?何のために?そして、橘は何のために僕を選んだのか? 主人公の想い、考え、葛藤が、手に取るように伝わってきます。きっと、読んだ後は気持ち良く本を閉じることができるでしょう。 作者の精一杯の想いがこもっている作品です。 ぜひ、御一読を。