Winner
「十分お若いと思いますよ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいけれど、もうすぐ40になるんだ。そういう君こそ若いでしょ?」
探りを入れられた。私と同じくらい、興味を持ってもらえたのであれば、ここは正直に答えておくべきかな。
「いえいえ、私も30になりました」
「そうは見えないよ。あ、そちらも焼けたみたいだね」
皿の上に盛り付けられたお肉を見て、また私のお腹が反応した。隣の彼にも聞こえてしまったに違いない。鼻の奥でくすっと笑われた気がしたけれど、居眠りしていた彼とはこれで五分だと思うことにした。

熱々のお肉をほおばりながら、ちょっといい日本酒を頂いた。
「起こしてくれたお礼にどうぞ」とのことだった。
お礼を言い、名刺交換。こんな時、転職先がそれなりにしっかりしたところで良かったと思う。たとえ田舎だとしても。
彼の勤務先は福島の金融機関だった。

頂いた日本酒は、まろやかで後味すっきり。こんなに美味しいお酒は久しぶりだった。
飲みやすいと感想を述べたら、にっこり笑ってくれた。
笑いじわが可愛い。けれど、目の下にはクマが存在感たっぷりに鎮座している。名刺を見て覚えたばかりの名前で呼びかけてみる。

「広田さん、相当お疲れのようですけれど、大丈夫ですか?」
聞いてしまってから、あまり深入りしないほうが良かったかもしれないと後悔した。彼が話してくれたら、自分のことも話さなくてはならない。
「あ、無理にとは言いません。スルーしてくださっても……」
私の言葉を遮って、彼が口を開いた。
「昨日、お袋の手術だったんだ。で、付き添いしてたって訳」
「もしかして、ここの近くの病院ですか?」
「そう、すぐ近く。病院から一番近いのがこのホテルだから」
なるほど。
「それで、お母さまのご容態は?」
「ああ、今のところは大丈夫。ただ、予後があんまり良くなくてさ」
予後、という言葉でピンときた。
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