Winner
日本有数の最先端医療を受けられるこの病院を選んで入院・手術をしているということは、難しい状況なのだろう、と。
「大変、なんですね。辛かったでしょう。お気持ち、お察しします」
立場は違っても、同じだから。そんな気持ちで彼の顔を見たら、一瞬、真顔になって、それから問われた。
「霧島さん、わかる? それは共感? それとも同情?」
間髪入れず答えた。
「共感です。でも、家族としてではありません」
「え?」
怪訝な顔をして、首をかしげている。ここまで言ってもまだ気づかれない、ということは、私はこの5年で自分が思っている以上に見た目だけはカバーできたのかもしれない。

グラスに残っていた日本酒を一気に流し込んで気合を入れる。そして。
「5年と少し前、私もこの病院で命を救われましたから」
それまで眠たそうだった広田さんの目が大きく開かれた。
「手術、したの?」
恐る恐る聞かれたことに、笑顔で答えた。
「ええ。スパッと。思い切りよく」

どこを?との問いにも正直に答えると、広田さんは「うちのお袋と同じだ」と打ち明けてくれた。
「そうは見えないな。もちろん、いい意味で。術後5年以上経過したってことは、今日はお祝いだった?」
どうやら、身内に患者がいる人には私の高級ホテルでのお一人様、鉄板焼きディナーの理由もお見通しだったらしい。

でも、お母様が治療真っ只中の広田さんに向かって、浮かれるような言動は憚られる。
それに元々、落ち込んだ気持ちでしぶしぶここへ来たのだから。
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