Winner
「毎月だった検査が3か月おき、半年おき、そして1年おきになって、5年目の診察でもまだ元気でいられたら、絶対にこのホテルに泊まろうって思っていました。そのとき付き合っていた彼と一緒に泊まるつもりで頑張ったんですよ」
「うん。わかる」
そう言いながら、広田さんは私のお猪口に注いでくれた。
ありがとうございます、と一言告げてから、また思い切りよくごくりと飲む。そして。

「でも、やっと退院できた時に、彼から別れようって言われて。地元を離れて治療に専念している間、彼と私の親友が、私のことで連絡を取り合っているうちに……っていう、よくある話ですよ」
「ひどい話だな」
「いいえ。仕方がないんです。『予後の悪い』私より、元気な子どもを産める彼女を選ぶのは当然だと思うから」
広田さんの動きが、一瞬止まった。私の顔をじっと見て、言葉を探しているようだった。
私はすっかり性格がねじ曲がってしまったのだ。こんな言い方をして広田さんの反応を見てやろうなんて思ってしまうほどに。

こんな爆弾を仕掛けたのに沈黙が怖くて、私は残りの日本酒を一気に飲み込んだ。
ちょっと、酔いが回るのが早い、かも。
そういえば、すきっ腹のまま、ろくに料理も食べないで日本酒をハイペースで飲んでしまったっけ。それもこれも『彼ら』のせい……。

「病気に勝っても、負け犬根性が染みついてしまってるんですよ。だから、今日は絶対に勝ち組御用達のこのホテルで楽しく過ごそうって。なのに、どうしてよりによって家族サービス中の『彼』がここに泊まってるの?」
「え? 元カレ、ここにいるの?」
「あり得ないと思いませんか? 私が入院していた病院の目と鼻の先ですよ、ここ!」
思わず言葉に力が入ってしまって、隣の老夫婦の会話が止まった。すみません、と言葉がけをしてから、落ち着くために水を一口飲んだ。
それを待っていたかのように、広田さんの声が響く。
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