Winner
「霧島さん、ひとつ聞きたいんだけど、元カレって、お見舞いに来たことある?」
さっきと変わらない穏やかな口調で問われた。
弱っているところを見せたくなかったし、遠く離れたこの病院は、交通費だけでもかなりの出費だ。

「来ないでって、言ってました」
「じゃあ、知らないまま予約したのかも。知ってたら避けるんじゃないかな?」
「そう、ですね」
「で、君は元カレファミリーを見てしまって、祝賀ムードから遠ざかってしまった、と。実にもったいないな」
「それは、そうですけれど……でも」
「今、ここに入院している患者にとっては、憧れの『勝利宣言』を勝ち取ったのに、そんな男に台無しにされていいの?」
「全然よくないです! むしろ踏み台にしてもっと幸せになります。そのためにここへ来たんだから!」
「そうそう、その意気! 昨日はうちのお袋の手術記念日で、今日は霧島さんの勝利宣言記念日なんだから、楽しく飲もうよ」
「了解です……っていうかもう十分飲んでますけど」
「美味しく飲めてる?」
「もちろんです。お酒が美味しいっていうことは、元気な証拠って言いますよね。今の私は元気いっぱいですから。この元気、広田さんのお母様にも分けてあげたいな」

「じゃあ、霧島さん。ここも2次会も奢るから、お袋に会ってサバイバーの経験を語ってくれないかな? ぶっちゃけ、同じ病気で元気に復帰した人を探すことが大変だからさ」
「私でよければ、喜んで! でも、術後すぐはあまり人に会いたくないかも……」
管がいっぱい繋がった身体で、初めての人と面会っていうのは、ちょっと、ね。
私がそう告げると、広田さんは少し考えたあと、満面の笑みを浮かべてこう言った。

「それじゃあ、3週間後にこのホテルを予約しておくから、その時にお願いするよ」
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