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さらに。
「お袋に会わせることも楽しみだけれど、俺もまた霧島さんに会いたいなって」

広田さんに出会ったことは偶然だったし、『彼ら』と再会したことも偶然なのだろう。
だけど、これから先の運命は私が決めるのだ。『彼ら』をバネのきいたロイター板として活用し、思いっきり前のめりに跳んでいこうと心に誓った。

広田さんが眠たそうなので、鉄板焼きのお店だけでお開きにした。朝食の時間を合わせることにして、おやすみなさいとエレベーターで解散。

素敵な夜景をじっくり見る余裕もなく、睡魔に襲われる。
久しぶりの日本酒は、けっこう効いた。



翌朝、やっぱり会ってしまった。

朝食会場で談笑していた私達のテーブルの横を駆けていく男の子。『彼』の子どもだ。
「こら、ミヅキ! 走ったら危ないから!」
『彼』はこちらに視線を向けた途端、固まった。その様子を見て、広田さんははっとした表情を浮かべたあと、すぐ笑顔になった。

「来月お袋に会う時のことなんだけど、弥生のおすすめの本を持ってきてくれないか?」
『彼』が誤解しそうな話題を選んで振ってくる。しかも初めて私の下の名前を呼ぶっていう大サービス。後ろから『彼女』の姿も見えたから、私もちょっと乗せられてみる。
「お母様って、どんなお話が好き?」
「あの年で爽やかな恋愛小説、しかもハッピーエンドじゃないと怒るんだ」

彼女が足早に通り過ぎようとしている。でも、これだけは言わせて。
「私もそういうのが好き。自分が幸せだから、ヒロインも幸せになって欲しいし、周りみんなが幸せになれたらいいなって。ね?」

広田さんが穏やかな笑みを浮かべている。
この瞬間、私は病気にも過去にも勝ったと確信した。
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