夢のひと時
夢のひと時
「で、いるの?」
事情を聞いた奈美が酷く面倒くさそうに尋ねる。
慎重に辺りを見渡すと、優雅なクラシックをBGMに仕事や会話をしている人々が見えた。
「いない」
「例の先輩だよね?」
「うん」
「二回見かけただけなんだよね?」
「うん」
「今日も来るとは限らないし、そもそも本人かどうかも分かってないんでしょ」
「うん……」
溜息を吐いてからメニューを開く奈美が呆れていることは一目瞭然だった。
「ランチ直後にホテルでお茶しようって言うから何事かと思ったら」
「ごめん」
“夢のひと時”を与えてくれると名高いこのホテルを私は最近よく訪れている。
きっかけは先月の土曜日、実家から遊びに来た母と評判のランチのために訪れた時のことだ。ロビーラウンジで高校の時に憧れていた先輩に似た人を見かけた。その時は似てるなと軽く考えただけだったけど、今月初めの土曜日、毎年恒例の会社の友達とのデザートビュッフェ会でここを訪れた時もまたその人を見た。
他人の空似にしては似過ぎている。そう思うと気になって翌週も足を運んでみたけどその人はいなかった。先週もなんとなく来てしまって、やっぱり見当たらずコーヒーを飲んで帰った。
土曜日に二回見かけただけ。たったそれだけのこと。しかも本人かどうかも分からない。先々週も先週もいなかった。でももしかすると今週は、そう思うと諦めきれなくて今日もまた、大学からの友人の奈美と約束していた映画とランチの後でここを訪れたのだった。
事情を聞いた奈美が酷く面倒くさそうに尋ねる。
慎重に辺りを見渡すと、優雅なクラシックをBGMに仕事や会話をしている人々が見えた。
「いない」
「例の先輩だよね?」
「うん」
「二回見かけただけなんだよね?」
「うん」
「今日も来るとは限らないし、そもそも本人かどうかも分かってないんでしょ」
「うん……」
溜息を吐いてからメニューを開く奈美が呆れていることは一目瞭然だった。
「ランチ直後にホテルでお茶しようって言うから何事かと思ったら」
「ごめん」
“夢のひと時”を与えてくれると名高いこのホテルを私は最近よく訪れている。
きっかけは先月の土曜日、実家から遊びに来た母と評判のランチのために訪れた時のことだ。ロビーラウンジで高校の時に憧れていた先輩に似た人を見かけた。その時は似てるなと軽く考えただけだったけど、今月初めの土曜日、毎年恒例の会社の友達とのデザートビュッフェ会でここを訪れた時もまたその人を見た。
他人の空似にしては似過ぎている。そう思うと気になって翌週も足を運んでみたけどその人はいなかった。先週もなんとなく来てしまって、やっぱり見当たらずコーヒーを飲んで帰った。
土曜日に二回見かけただけ。たったそれだけのこと。しかも本人かどうかも分からない。先々週も先週もいなかった。でももしかすると今週は、そう思うと諦めきれなくて今日もまた、大学からの友人の奈美と約束していた映画とランチの後でここを訪れたのだった。
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