夢のひと時
「恋しちゃダメだよ」
「雛と男の趣味だけは全然合わないから。それに来年結婚する私にそれ言う?」
「だよね。ごめんごめん」

結婚式は少し先だけど、ますます綺麗になっていく奈美を見るのは嬉しく、そして少し羨ましかった。

「前に見た時は、一人だったの?」
「いや、遠くてよく見えなかったけど人といた」
「男?」
「うん、相手スーツだったから仕事かなって」
「充分よく見てるじゃん」
「相手は見るでしょ」
「それもそうか」

奈美との会話の間も新しい客が案内される度にチラリと見る。だけど目的の彼は現れず、ただ時間だけが過ぎていく。いつの間にか二人のお皿もカップも空になっていた。

「奈美、今日はもう諦める。付き合わせてごめんね。買い物でも行こう」
「じゃあ化粧室行ってくるから少し待ってて」
「うん」

残念だけど仕方ない。また来週来るか、それとももうスパッと諦めるか。夢のためのコーヒーも悪くはないけど、正直なところ一杯に千円出すならランチのグレードを上げたい気もしないでもない。来客を気にしてると読書にも集中できないし、何もせずひとりで待つ時間は退屈だ。

それに例えば会えたとして何ができるのだろう。仕事中かもしれないし、私のことも覚えてないかもしれないというのに。

このラウンジは静かで落ち着いた雰囲気だった。こんなところで仕事をするなんてどんな職業なんだろうと柔らかいソファーに身体を深く預け、ぼんやり考える。

すると奈美が足早にこちらに戻ってきた。
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