はじまりの場所
金曜日の夜、駅で江藤さんを待っていた。クリスマスイブの夜だからいつもより少し、おしゃれしてみた。

歩いている人たちもクリスマスのせいかワクワクしているように見える。

「悪い!待たせてごめん!」
時間通りなのに走ってきたのか息を切らせて江藤さんがやって来た。そんな謝らなくていいのに。

「行こうか」

クリスマスの街を並んで歩く。どこに行くのだろう。周りから見たら2人はどんな風に見えるのだろう?

そんなことを考えながら着いたのは、去年忘年会があったホテルだった。

江藤さんは当たり前のようにホテルに入っていく。

着いたのはイタリアンレストランだった。

「忘年会に出られなかったからさ。今日は忘年会ってことで」

楽しみにしていた忘年会に出られなかった私を気遣ってホテルに連れて来てくれたんだ。

ワインで乾杯してイタリアンを食べる。
美味しい!うーん幸せだ!

久しぶりに会えたのとクリスマスのホテルでのディナーに気分が上がって楽しい時間になった。

食後のコーヒーを飲みながら、もう少し飲もうって話になった。

江藤さんに続いてエレベーターに乗る。

着いたのは最上階。プレミアムスイートのフロアだった。

ん?バーはもう一階下なのでは?

江藤さんはどんどん歩いて行って、突き当たりの部屋をカードキーで開けた。

入っていいの?でも江藤さんは入ったし。
江藤さんに続いて入ると正面の窓から一面の夜景が見えた。

「すごい!めちゃくちゃきれい!」
窓まで小走りで近づいて、クリスマスの夜景にうっとりと見惚れた。

「神谷さん」
後ろから呼ばれて振り返る。

「出会って1年だね。神谷さんと過ごす時間がいつの間にか大切になった。会えない時はいつも神谷さんのことを考えてた。神谷さん、僕と付き合って下さい。神谷さんが好きです」

まっすぐに向いている瞳に、私が私だけが映っている。

何かがストンと心に落ちた。
そっか、江藤さんが好きなんだ。だから誰かが江藤さんを狙ってるのが嫌だったんだ。江藤さんが誰にでもやさしいのが嫌だったんだ。

こんなにシンプルなことなのにどうして今まで気付かなかったんだろう。

「私も江藤さんが好きです。出会えてよかった。私を彼女にして下さい」

江藤さんの顔が今まで見たことないくらい笑顔になって両手が広げられた。

「おいで、梓」

大きく頷いてその胸に飛び込んだ。

あったかい胸。鼓動が心地よく聞こえる。

「2人が出会ったこのホテルを、2人の始まりの場所にしたかったんだ。ここから始めよう。これからは2人でずっと一緒に歩いていこう」

非日常の世界での出会いが日常になって、永遠になった瞬間だった。
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