はじまりの場所
ソファは窓に向かって置かれていて、テーブルの上のろうそくのやさしい光の向こうに夜景が広がっている。

「すごい!夜景きれいですね!」
思わずはしゃいだ声を出してしまう。

「ほんとにそうですね。こんなにきれいな夜景を見られるなんて上がってきてよかった」

注文していたカクテルが届いて二人で乾杯した。

「そういえば名前を聞いていませんでしたね。僕は営業1課の江藤翔悟(えとうしょうご)です」
「A営業所の神谷梓です」

それからのんびり夜景を見ながら話をした。江藤さんは入社6年目で3歳年上なこと。隣の県の支社から異動してきたこと。うちの支社から3つ隣の駅で一人暮らししていること。お兄さんと弟がいること。

明日が土曜日で休みとはいえそろそろ終電の時間が気になってきた。

「楽しい時間はあっという間ですね。よければ連絡先を交換しませんか。また食事に行きましょう」

連絡先を交換して、駅まで一緒に歩く。外の冷たい空気に酔いも非日常の高揚感も醒めていく。

でも心はぽかぽかしている。
隣にいる江藤さんのせいだと思う。

非日常の世界の出来事が日常にも続いている。

何かが始まる予感にワクワクしていた。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop