御曹司と愛されふたり暮らし
「なにも叫ぶことはないだろ」
その後、朝食を口にしながらハルくんは小さく笑いながら私にそう言った。
さっき叫んでしまったあの後、私は思わずベッドから転がり落ちて、そのまま自分の部屋に慌てて戻って着替えたのだった。
「ご、ごめんって。だって驚いちゃって」
「なんで驚くんだよ。一緒に寝よう、って夕べふたりでそう話してから寝たわけじゃん。あんなふうに驚かれると、まるで俺が夜中にコッソリ花菜のベッドに侵入したみたいだろ」
「だからごめんって! まだそういうのに慣れてないから驚いちゃったの!」
私が慌てながらそう言うと、ハルくんはまた小さく笑いながら、「わかってるわかってる」と言って、コーヒーを一杯すすった。
うぅ、出た。意地悪めな笑顔。
でも、この笑顔にだってときめいてしまうんだけどね。
「それにしても、花菜の寝顔はほんとかわいいな。この寝顔を俺がひとりじめしてるんだ、って思ったら夕べは最高の気分だったぜ」
「ちょっ! そういう恥ずかしいこと朝からサラリと言わないで~!」
私はそう言うけど、ハルくんはまたしても意地悪めな笑顔で「えー?」と答えるのみで。
もう! だってほんとに顔が熱くなって恥ずかしすぎるから! やめてほしい~!
私がひとり慌てふためいて、顔を赤くさせたり、頬を膨らませたりしていたら、今度はハルくんが「ごめんって」と謝った。
そして。
「花菜、俺、今日は仕事終わるの遅くなるから、先に寝てて。夕飯は作っておいてくれるとうれしい」
朝食を食べ終わり、イスから立ち上がってスーツのジャケットを羽織りながらハルくんはそう言った。
「そうなんだ。わかった」
「夜ひとりで寂しい?」
「そんなことないよ。お仕事なんだから仕方ないよ」
「へぇ、そうなんだ。俺は花菜と夜一緒に過ごせなくてすっっごい寂しいけど?」
「なっ……!」
ああ、まただ。ハルくんのうれし恥ずかし発言には、まだまだ慣れそうにもありません。