御曹司と愛されふたり暮らし
「もしもし?」

大家さんがいったいなんの用事だろう?と思いながら電話に出ると――……。


『もしもし、戸山さんかい? あのね、アパートの部屋が一室空くことになったんだが、あんた、どうするかい? 戻ってくるかい?』

「え……?」


大家さんによると、二階に住んでいた大学生の男の子が、本当はもう一年住み続ける予定だったらしいのだけど、この時期に急遽就職が決まったため、来週には引っ越すらしい。

この時期の急な引っ越しのため、ほかにあのアパートに住みたい人の予定もないらしく、そこで大家さんは私の存在を思い出してくれたらしい。


「え、と……私は……」

『もちろん、ムリにとは言わんが。まんしょんの方が快適だろうしのぅ』

「あ、待って……」


あれ、私、なんで『待って』なんて言ってしまったんだろう?


「少し、考えさせてください。また、連絡させてください……」


どうして、『考えさせてください』なんて言ってしまったんだろう? 『また連絡する』なんて言ってしまったんだろう?


電話を切って、その場に突っ立ったままボンヤリと考えこむ。


私は、ハルくんのことが好きで、ハルくんも私のことを好きになってくれた。

エッチはまだだけど……私たちは確かに両想いで……。

だったら、このマンションで、ずっとふたりきりで――……。



……違う。

両想いだからこそ、余計に。ハルくんの負担になりたくないんだ――……。
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