御曹司と愛されふたり暮らし
思わず、口にしてしまった言葉。

ハルくんを見れば、彼も驚いた表情で私を見ていた。


だけど、言ってしまったことに対して不思議と後悔はなくて。

過去のことだからかもしれないけど、私は冷静で。


「……すごく、好きだったよ。初恋だった。

だから合コンで再会した時すごいうれしかったし、ケガのことまで覚えてくれたことや、それをずっと気にかけてくれてたこともうれしかった。

なにより、こうしてまたお話できるようになったのが本当にうれしいよ。


でも……でも……こんな償いなんて望んでない……。

こんなふうにお世話してもらうのなんて望んでない……。




後悔と懺悔でこんなことされるくらいなら、相手にされない方がマシだよ!」



そう言って、私は自分の部屋に入り、携帯と財布と合鍵だけハンドバッグにつめて、コートを羽織る。

そして、玄関を飛び出すようにしてマンションをあとにした。




――…

ああ、バカなことをしてしまった。

というか、言ってしまった。


私は、駅の向こう側にある公園のベンチにひとり座り、空を見上げた。

星は全然見えない。

遅い時間だし、今この公園にいるのは私ひとりだけだ。


ほんと、バカみたい。

子どもみたいに感情をむき出しにして、話し合うこともなくマンションを飛び出して。
大体、こんなふうに飛び出してきたところで、ほかの荷物は全部マンションにあるわけだし、アパートに戻るにしたってマンションに戻らなきゃいけないのに。
ただのかまってちゃんみたい。


……違う。

荷物取りに戻らなきゃいけないとか、下着見られて恥ずかしい思いしたとか、そんな自分の事情や感情はどうでもよくて。



やさしいハルくん。

小学生の時から変わらず、温かい笑顔とそのやさしさで、大人になった今も私を包んでくれた。



そんな彼が、自分のことよりも私のことなんかを優先していることが辛い。



足のケガなんかどうでもいいよ。

確かにケガした時は痛かったけど、あれはハルくんのせいじゃないし、それに。




……あの時の痛みより、今の心の方が痛い。

やさしい彼に、自分の世話なんかさせてしまっている自分が嫌でたまらない。




苦しいから、彼のもとから去りたい。

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