御曹司と愛されふたり暮らし
気がついたら涙で目の前がにじんで。

いけないいけないと右手の甲で目元をぬぐった時。



「花菜!」

と、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえて。


振り返ると、私の赤いマフラーを手に持ったハルくんがそこにいた。




「ハルくん……なんで……」

私が問いかけると、ハルくんは答えるよりも先に私の隣に腰をおとすと、私の首にマフラーをまいた。
そして。


「こんな時間に外出るなよ! なにかあったらどうすんだ! カゼひいたら看病してやるけど、変質者に狙われたらどうすんだ!」


こんな時まで、やっぱり私の心配をしてくれる。

子どもみたいに感情だけで行動してしまった私のことを。


……やっぱりやさしいね。
でも、やさしいからこそ苦しいの。



「……ハルくん、すぐに追いかけてきてくれたから私の場所がわかったの?」

なんとなく目は合わせられずに、私が隣の彼にそう尋ねると。


「いや、お前意外に足早いのな……。ちょっとの時間差で見失ったわ」

「じゃあなんでここが……」

「……まあ、夜とかマンションにひとりにしておくことが多いわけだし、万が一のことを考えたらちょっと心配で、それで……」

「?」

彼らしくなく歯切れの悪い様子に私は首を傾げるけど。

数秒後、嫌な予感がして、「もしかして」と彼に尋ねてみる。


「じ、GP……」

おそるおそる言葉にすると、彼も気まずそうに

「S」

と答えた。

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