御曹司と愛されふたり暮らし
「え?」

「せっかくふたりで暮らしてるのに、平日は俺が帰ってくるの遅いし、休日もふたりの予定はなかなか合わないし。
俺、今度の日曜日は久しぶりになんの予定もないんだ。だから、どこかふたりで遊びにでも行こうぜ」


思いがけないハルくんからのお誘いに、私は思わずポカンと間抜けな顔をしてしまう。


でも、うれしい。確かに、彼の言う通り、せっかく一緒に暮らしているのに、ふたりでゆっくり過ごす時間はそこまでなかった。


また、小学生の頃みたいに楽しく遊べるような気がして、私は

「うん!」

と元気よく答えた。


すると、ハルくんもにっこりと笑ってくれて、私は……その笑顔に思わず胸がキュンとしてしまった。
落ち着いた大人の男性に成長したハルくんだけど、笑顔はあの頃とまったく変わっていなくてかわいい表情だから……そのギャップにやられてしまいそうになる。
落ち着け、私。確かにハルくんのことは気になっているけれど、笑顔くらいでこんなふうにドキドキしていたら、一緒に暮らしているのに身がもたないぞ。


そんな自分をごまかすように、私は「どこに行く?」とハルくんに尋ねると。


「じゃあ、水族館とかどう?」

「水族館?」

「最近オープンしたばかりの水族館があるって聞いて、行ってみたいと思ったんだよな」


そう話すハルくんの表情や声色は楽しそうだ。ハルくん、お魚好きなのかな。

でも、水族館というワードに私もウキウキしている。
水族館なんていつぶり?
たぶん、小学生の時ぶりだ。
小学生の時の社会科見学で行ったのが最後だ。
まああの時はまだハルくんとは特別仲がいいわけではなかったし、班も違ったから、ハルくんとの思い出は特にないけれど。
それにハルくんは、社会科見学で水族館に行ったことすらきっと覚えていないだろう。

そう、思ったのだけれど。

「小学生の時、社会科見学で水族館行ったよな」

笑顔でそう言われ、私はなんだか妙にうれしくなってしまう。
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