ROOM 2005
1.


「……では、今日もお客様に快適な時間をお過ごし頂く為のルームメイキングをお願いします」


マネージャーの長い朝礼が終わって、ルームメイキングのスタッフたちは自分の持ち場に移動をはじめる。
桜井 光希(さくらい みき)もその一人。


「光希、今日アンタが担当するとこね……大企業の若社長が連泊してるらしいよ」


光希にこっそり耳打ちしたのは、スタッフの中でも噂好きと名高い洋子(ようこ)だ。


「へぇ、そうなんだ……」


光希は当たり障りのない、というよりは興味の無さそうな態度で返事した。


ここは、都内きっての高級ホテル。
有名人や会社の重役たちがよく利用しているとしばしば話題にあがる。


田舎の寂れた旅館じゃあるまいし、そんなことでいちいち騒いでいたら仕事にならない。


「見かけたらお近づきになってきてよ」


「やだよ……」


「ケチ~。まぁ、そのお部屋っていつもルームメイキングお断りになってるって話だし、はじめから無理なことだったかもしれないけどさ」


「何日くらい宿泊されてるの?」


「軽く一週間くらいじゃないかなぁ」


洋子の話を聞いて、光希は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


毎日、丹精込めて掃除している部屋をどんな汚部屋に変えるつもりなんだろうか。


社長だかなんだか知らないが、勘弁してもらいたい。


「そこの二人!何をコソコソしてるの!」


マネージャーから不意に声を掛けられ、光希も洋子も背筋がピンと伸びる。


「すみません……」


「ごめんなさーい!」


二人はすぐ謝って、次の言葉を出されないうちに持ち場に向かって早歩きした。


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