ROOM 2005
「夜になればおいで。見せてあげる」
背後から聞こえる低く滑らかな声に光希は身震いした。
振り返らなくたって誰だかすぐに分かる。
磨きあげられた窓に映し出される二人の人間。
一人は光希自身。
そして、もう一人は……
「湊先輩……」
光希のぽってりとした唇が彼の名前を紡いだ。
「十……いや、十二年ぶりだな」
時の長さを感じる。
高校生の頃、二つ年上の湊 龍之介(みなと りゅうのすけ)先輩と光希は互いに惹かれ合っていた。
大企業の御曹司で学校一の人気者の先輩とどこにでもいる女子高生。
不釣り合いだって頭では理解していても、一度芽生えた恋心は都合よく消えてはくれない。
二人は隠れるようにして付き合い続けたが、そう長くは続かなかった。
付き合っているという噂は瞬く間に広がり、彼の両親の耳にも入ってしまった。
彼の卒業と同時に二人は引き裂かれるように別れたのだった。
「えぇ……」
もう二度と会う事は無いと思っていた。
たとえ、再会できたとしても彼と一緒にはいられない。
昔の過ちを繰り返すだけだ。