ROOM 2005
「申し訳ございません。お部屋を間違えてしまいました」
光希はその場から一秒でも早く逃げ出す事を選んだ。
心の奥で燻り続けた思いが目を覚ましてしまわぬうちに。
「……待てよ」
湊先輩が光希の手を掴む。
光希は「離して下さい……」と訴えるも、彼がその手を離す事はなかった。
「光希、ずっとお前を探してた……」
光希の体は彼の胸をめがけて強く引き寄せられる。
強引なキスはあの頃と少しも変わっていない。
どちらかと言えば気弱で後ろ向きの光希にとって、彼が持つ力強さは憧れそのものだった。
巻き込まれてしまう。
同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのに……
「……っ、みな……せん……ぱい……」
「光希……」
湊先輩に切なく名前を呼ばれて、光希の心にチクッと痛みが走る。
力いっぱい彼の体を押し返した。
心に走った痛みが光希の事を現実(いま)に引き戻す。
「ごめんなさい……!」
光希は深々と頭を下げ、仕事道具を積んだ荷台を押して脱兎のごとく2005号室を後にした。