ROOM 2005
「来ると思ってたって事は、私の名札……」
「持ってるよ。そそっかしいのは相変わらずか」
「返して下さい……」
「そうだな。今からちょっと付き合ってくれたら返すよ。話がしたいんだ」
「……困ります」
ずっと閉じ込めていた未練が押し寄せてしまうから。
「光希、もう分かっていると思うけど……俺はあの頃と変わらずお前が好きだ。出張でこのホテルに宿泊していて、ここで働くお前を見つけた時は驚いた。同時に、奇跡だと思った」
光希の体は湊先輩の腕の中にすっぽりおさまった。
今度は割れ物を扱うみたいに優しい。
この温もりが愛しくて、懐かしくて、光希の心を苦しめた。
「あの日、私たちがどうして離れ離れになってしまったのか忘れたわけじゃないよね……」
「あぁ……」
二人にとっては身を裂かれるような記憶。
あんな想いは二度としたくないし、させちゃいけない。
「じゃあ、もうここでさよな――…」
しかし彼はそんな気持ちを落ち消すように「光希は……?」と重ねた。
「過去とか立場とかそういうのじゃなく、光希自身は俺の事どう思っているのか聞かせて欲しい」
光希は俯いたまま黙りこんでしまった。今の気持ちを上手く説明できなくて困惑する。
「私は……」
その時だった。
部屋の外からコンコンとノックが響く。