ROOM 2005
「池田です。お休みのところ申し訳ございません。プレゼンの件で確認したい事が……」
訪ねて来たのは湊先輩の部下のようだ。
光希の体が強張る。
自分の存在を知られてはいけない。
一緒にいられなくなってしまう現実が咄嗟に頭を過った。
「……大丈夫。今度は絶対守るから」
湊先輩は怯える光希の肩を抱き、そう囁いた。
「今、電話中なんだ。すまないが、明日にしてくれないか」
嘘も方便。
彼が適当な理由で断ると、池田は「分かりました。失礼いたします」とそれを受け入れた。
部屋の外から再び人の気配が消える。
光希の全身から力がフッと抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「光希、大丈夫か?」
湊先輩の言葉にも反応できない。
自分が恐ろしくなった。
過去の苦い経験までも塗り潰してしまう己の貪欲さ。
“彼を自分だけのものにしたい――…”
認めてしまえばきっと楽になる。
光希は腕をグッと伸ばし、すがるようにして彼の首に抱きついた。