ROOM 2005
離れていた時間を取り戻すように互いの気持ちを確かめ合って、温もりを感じながら眠りについた。
深夜十一時、光希は客室を染める赤色のやわらかな明かりで目を覚ます。
東京タワーのライトアップだった。
「綺麗……」と思わず見惚れてしまう。
もっと近くで見たいと思うと、バスローブ一枚羽織ってベッドからおりた。
さっきまで景色を楽しむ余裕なんか皆無だったが、2005号室の夜景は想像を遥かに超える素晴らしい景色だった。
「初めて見た景色はどう?」
目を覚ました光希に気付いて、彼が声を掛けてきた。
「宝石箱をひっくり返したみたいね」と光希は嬉しそうに答える。
湊先輩もベッドからおりて光希の傍にやってきた。
彼は後ろから光希の体を包み込むように抱きしめる。
大きな窓ガラスに反射して写った二人の姿は、高校生の頃とはちがう大人の男女だった。
湊先輩は「約束通り、これは返しておくよ」と言って、光希が無くした名札を手のひらに乗せて差し出す。
光希はそれを黙って受け取った。
「光希、明日もまた会いに来てくれるだろ……」と彼は問う。
当たり前だと思っていた“明日”が急になくなってしまった十二年前。
問いかけの真意を思うとどうしようもなく切なくて、光希は「はい」と頷く事しかできなかった。