愛を紡いで、キスをして。
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クリスマスカラーに染まった街には、カップルや家族連れの姿が目につく。
イヴの今日は土曜日だということもあるのか、まだ日が暮れる前なのにどこも人々で溢れていた。
予定通り休日出勤することになった和也は、今朝もいつもと同じ時間に身支度を整えて家を出た。
ただ、いつもと少しだけ違ったのは、オーダースーツを身に纏っていたこと。
大事な商談がある時のような特別な日にしか着ないスーツ姿の彼に理由を尋ねたら、『今日は俺の人生で一番重要な日になるかもしれないから』とどこか緊張した面持ちで笑っていた。
見送る時に『頑張ってね』としか言えなかった私に、和也は小さく頷いただけだったけれど、仕事は上手くいったのだろうか。
彼のことだから私が心配する必要なんてないのかもしれないけれど、多忙な日々を送っていることを知っているからこそ、成功を願わずにはいられなかった。
和也に指定されたカフェへの道中、賑やかな街中なのに潮の香りが感じられたのは海が近いからだろう。
三日前、彼から告げられた待ち合わせ場所は、お台場だった。
和也とのデートでは数えるほどしか行ったことがないから珍しく思っていると、彼は『たまにはいいだろ』と微笑んだ。
たしかに、どこか新鮮な気持ちにはなったし、予約してくれたお店の名前は秘密だと言われたこともあって、少しだけドキドキもしている。
仕事のためとは言え、いつもとは違うスーツを着ていた和也に合わせて、私もたまにしか出番のないワンピースを選んだ。
コートの中のネイビーのワンピースは、シンプルで綺麗目なデザインだけれど、五分丈のチューリップ袖になっていて可愛さもある。
アクセサリーはパールのネックレスと誕生日に彼からもらったピンクゴールドのブレスレットを着けて、マロンブラウンの髪は両サイドを捻ってうなじが見えるように緩く纏めてみた。
スカートやワンピースは好きだけれど、八年も付き合っていれば普段はカジュアルなスタイルになりがちだから、和也の前でこんなにおしゃれをしたのは久しぶりだ。
イヴの雰囲気に背中を押されるように選んだワンピースの裾が揺れる度、なんだか心がフワフワとしていた。