愛を紡いで、キスをして。
待ち合わせの時間を五分ほど過ぎた頃に、【遅れる】というメッセージと謝罪の言葉が送られてきた。

よくあるパターンに苦笑が零れ、【大丈夫】と【気をつけてね】と可愛い絵文字付きで返す。
仕事だから仕方がないとは思うのに、楽しそうなカップルに囲まれてひとりでカフェラテを飲んでいる今は、その絵文字とは裏腹にため息が漏れた。


和也とは大学で出会い、サークルのクリスマスパーティーの帰りに彼から告白されて付き合うことになった。

『好き』なんて滅多に言わない人だけれど、優しくて努力家で、私のことを大切にしてくれる。
ただ、社会人になってから一気に忙しくなった和也は、いつからか仕事を理由に遅刻やドタキャンを重ねるようになり、付き合って三年が経つ頃には喧嘩が増えた。
その解決策として始めた同棲は私たちの喧嘩を減らしてくれたけれど、代わりに良くも悪くもこの関係が変わる気配もなくなってしまった。


どんどん結婚や出産をしていく周囲を見ていると、どうしても不安になってしまう。

だけど……。
彼の気持ちを確かめる勇気はないまま、八回目の記念日となる今日を迎えてしまった。


大切にしてくれているけれど、和也は私との関係を進展させるつもりがないのかと思うほど、“結婚”という言葉に触れることはない。
日に日に不安が募り、仲のいい同僚には『さっさと別れたら?』なんて言われてしまうこともあるから、本当にこのままでいいのか……と悩んでしまうけれど──。


「悪い!」


それでも、息を切らして額にうっすらと汗を掻きながら私のもとに来てくれた和也を見た瞬間、やっぱり彼との未来を信じたくなってしまった。

何度、こんな気持ちにさせられたのだろう。
告白されて付き合い始めたはずなのに、いつの間にか私の想いの方がずっと大きくなってしまっているみたいだ。


少しだけ悔しくなりながらも「お疲れさま」と微笑むと、和也はホッとしたような笑みを零したあと、「行くぞ」と私の手を引いて立ち上がらせた。


「えっ?」

「遅刻しておいて悪いけど、ギリギリなんだ」


腕時計に視線を遣った彼の横顔には焦りが混じっていて、本当に時間がないことを悟る。
ひんやりとした大きな手を離さないように、私は履き慣れないヒールをカツンと鳴らした。

< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop