ever after
そんな花嫁の“大好きな人”は……五大商社のひとつと言われる総合商社に勤務していた。
大学は都内の有名私立を卒業している。

担当者の話では、好みじゃないけど母性本能をくすぐられそうなイケメン、らしい。


『君もイケメンの部類じゃない? 優等生っぽくて、意外性がないのが弱点かな。まあ、あたしの好みじゃないけどね』


僕をからかうように付け足し、担当者は笑った。



数日後、僕も花婿と顔を合わせた。

そして確信した――女性の母性本能を入れるスイッチの場所は、僕には永遠にわからない、と。

花嫁に我がままを言い続けるその男は、大人になりきれない子供だ。
こんな男が一流商社に入り、しっかり者の妻まで手に入れ、いわゆる勝ち組と呼ばれるのだと思うと……。

ムカつくのは単なるヒガミだ。

いや、ムカつくタイプだからといって、花婿と張り合っても意味はない、とわかっている。

わかっているのだが……。

地方とはいえ国立大学出身なので、頭の中身は劣らないはずだ、とか考えてしまう。

もちろん、自分の働くホテルが総合商社に劣るとは思っていない。
ホテルマンであることに誇りを持っている。
だが目の前の男から、所詮サービス業、といった顔で見られたら……。

今回ばかりは、なぜか、笑顔でいるのがつらい。


そんな僕の苛立ちに、先輩キャプテンはすぐに気がついた。


『彼女でも作って、結婚前提の恋愛をして、幸せな家庭ってヤツを築いてみろ。指をくわえて見ていても、おまえのお嫁様はやってこないぞ』


それは妙に含蓄のある言葉に聞こえて……。

初めてのキャプテンを無事に終えたら、来年のクリスマスにはデートに誘えるような恋人を探そう。

だから今は、花嫁の夢を叶えるために頑張ろう――と。

あのときの僕にとって、それは、簡単に飛び越えられるハードルに見えていたのだ。


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