校庭に置いてきたポニーテールの頃
その言葉が救われたまでとは言わないけど、少しだけ心が軽くなった気はした。

お母さんが私に、悩みを無理して聞いたりしないって言ってくれたことに、なぜか少しだけ安心したんだ。


素直に「ありがとう」なんて言えたらいいけど、それもなんだか照れくさくて、私はただその場に立ったまま、お母さんの手元を見つめていた。


「……さて、今日は灯里の食べたいもの作ろうかな。何がいい?」


突然空気が変わったから、私も戸惑ってしまった。

「えっ?……うーん、じゃあね、ロールキャベツにしようかな」

「また面倒くさいこと言うね。ひき肉ないよ」

「今食べたい物作ってくれるって言ったばっかじゃん」

「はいはい。買い物行ってくるから留守番よろしくね」


笑いながらお母さんの背中を見送る。


……あ、今の笑顔は自然なやつだ。

直接口では言えないけれど、心の中でつぶやいた。


『ありがとう、お母さん』


私のお母さんだから、きっと言わなくても伝わっているんだよね。

< 200 / 345 >

この作品をシェア

pagetop