校庭に置いてきたポニーテールの頃
「あれ?次の曲入れてないの?」

気がつけば宮西の歌は終わっていた。俺は歌本を眺めたままぼんやりとしていたのだ。


「もう、ネタ切れなんだ。何歌おう」

「じゃあさ、あれ歌ってよ。スラムダンク。もちろん歌えるよね?バスケ部なんだもん」


俺が返事をする前に、宮西はテーブルに置いたままの歌本を取り上げて勝手に予約を入れてしまう。

その一連の動きを唖然としたまま見ていたけど、イントロが流れた瞬間にふと我に返ってマイクを握った。歌えない曲ではない。


さっきまで宮西が作っていたしっとりとしたムードは、今流れているアップテンポの曲によって一気にかき消されていった。

空気って本当に大事なんだな。さっきまで切なげな表情で歌っていた宮西も、今は曲に合わせて手拍子を打っている。


よかった、笑っている。

俺は今まで何を考えていたんだろう。もしまだ宮西がヒロを好きでも、今こうして笑っていてくれたらそれでいいじゃないか。

< 242 / 345 >

この作品をシェア

pagetop