校庭に置いてきたポニーテールの頃
考え事をしていて気が付かなかった。大嶋は私のすぐ後ろにいたのだ。


「びっくりした……どうしたの?大嶋」


大嶋は何も言わずに腕を伸ばし蛇口を止めた。流れる水の音が止まり、急に時間が止まったかのように感じる。

テレビの音が、とても遠くで鳴っているような気がした。


これから起こる予感を本能で感じたせいか、私は無意識のうちに、濡れていた両手をタオルで拭いていた。


吸い込まれるように、大嶋の目の奥を真っすぐと見つめる。どこかであの頃を面影を探すように。


大嶋は私の両肩を優しくつかみ、流し台を背に私を座らせる。力が抜けてしまいされるがままになっていた。


「……嫌なら言えよ。今のうち」

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