幕末を駆けた桜
『真白…俺は、お前に俺の所に来て欲しい』
それが俺の要件だ…と言って、真剣な目で僕を見てきた坂本に、一瞬思考が止まった。
『何を言って…』
『お前の中にある考え、理想。
それを理解して受け止められるのは、俺しかいないと思っている』
僕の言葉を遮るようにそう言った坂本に、思わず奥歯を強く噛む。
確かに、理解してくれない。
僕は、この時代では誰から見ても完璧なる異端者だ。
常識を持っていない。そんな物は通用、しない。
『俺は、お前と俺の思想は似ていると思っているが…お前の方は?』
坂本に問いかけられた事で、頭の中に様々な言葉が浮かんでは消えていく。
近藤さんの為に、彼らを守らなければ。
だけど、皆に僕の意見は通じない。
理解して貰えない。
坂本は敵だけど…いや、敵でもなく味方でも無いけど、あいつは、僕と同じ考えを持っている。
『僕は……』
そこまで言って、言葉が行き詰る。
言葉を発することができない。
どう、返せばいいのか、分からない。
目の前にいる坂本を取るべきなのか。
宴の用意をして待っている皆を取るべきなのか。
『もう1度言う。
真白、俺の所に来い』
そう言って僕に伸ばされた手。
その手を見つめながら、拳を握り締めた瞬間だった。