幕末を駆けた桜
『……おい、撤退する』
そう言った桂小五郎の目は、僕の方を見ながらも僕を捉えていなかった。
一体誰を…と振り返ったと同時に、僕等のいた部屋の襖が開く。
『お前は…西郷隆盛……か!?』
開いた襖から入って来たのは、教科書と見た感じでは全く違った顔だったが、威厳を感じる男。
長州のお偉い奴等はここにいる奴等くらいだから、先程の桂小五郎の話からすると…薩摩の西郷隆盛。
『…ご名答。
確かに、噂通り…頭が切れると名高い奴だけはある』
感心したように僕を見下ろす西郷隆盛に警戒し、いつでも刀を抜けるように手を置く。
『何故お前が…薩摩がここに…?
桂が言った事は、本当と言うことか?』
『そういう事だ。
薩摩と長州は、言うほど仲が悪いわけじゃ無いからな』
『……なら、お前等の言う稔麿は…』
沖田が今隣で戦ってる奴は、あの吉田稔麿だったのか…!
どうりで聞き覚えがあるはずだ!
『ほう…? 稔麿を知っているとは、大した情報通だな』