幕末を駆けた桜
『おお、真白。久しいな』
『お久しぶりですね、鴨さん』
鉄扇を煽りながら堂々と座る鴨さんの手には、今は酒が握られていない。
断酒…とまではいかないが、酒好きの鴨さんが酒を飲むのを制限したらしい。
なんでも、『真白のおかげだよ』なんて山南さんが言っていた。
『鴨さん、今回少しお願いがあって来ました』
正座して鴨さんと同じ目線になり、真剣に、目を逸らさずに見つめる。
そんな僕に、ただならぬ用があるのかと身構えたのか、鴨さんが仰いでいた鉄扇を畳の上へと置いた。
僕の隣で、山南さんが同じように正座して真剣に鴨さんを見ている。
『鴨さん…いえ、芹沢局長。
しばらく、山南さんをこの八木邸に置いてくれませんか』
僕の言葉に少し驚いたように目を見開いた鴨さんは、口角を上げ、なぜ? と僕に問いかけた。
『……芹沢さんも知っているとは思いますが、今現在新選組前川邸には、伊東甲子太郎という参謀が入隊しています。
僕は…どうにかして伊東甲子太郎を新選組から追い出すつもりなんですが、その前に山南さんが精神的に危険だと思い、その為に距離を置かせていたいと。
それと…山南さんと同じ考えの芹沢さんなら、山南さんも気兼ねなく話せると思うのです。
前川邸には、どうにも石頭な方が沢山いらっしゃいますから、山南さんも自分の考えをそう簡単に口にできる状況では無いので。
これは、良い機会では無いかと』