幕末を駆けた桜
『……僕は神楽真白。一番組隊士だ』
これでも頑張った方だ。
よろしくなんて言えるわけがない。
いや、言えなくもないが、全力で口と頭が拒否してる。
『真白君ね。私は参謀の伊東甲子太郎よ。これから宜しくね』
語尾に星でもつきそうな勢いでそう言った伊東甲子太郎に、思わず顔が引きつる。
『お前、俺は良いが伊東にくらい敬語使えよ』
『……無理』
『お前なぁ…『良いのよ、土方さん』
…なに?』
無理、と即答した僕に食ってかかろうとした土方の言葉を遮り、伊東甲子太郎がそう言ってニッコリと微笑む。
この言葉に、僕も土方も眉間にしわを寄せて探るような視線を向ける。
だが、伊東甲子太郎はそれに気づかずに笑ったままで。
『別に私は気にしないわ』
と言った。
……『すぐに此処からいなくなるもの』
そう、小さい声で付け加えて。
ほとんど聞こえない程の小さな声。
だが、僕の耳にはしっかりと聞こえた。
勿論、土方の耳にもちゃんとその言葉は届いたらしい。
伊東甲子太郎にバレないように笑みを貼り付けながらも、その眼の奥で、鬼は、疑い深く目の前の男を見ていた。
……伊東は伊東で、僕になにかしら仕掛けるらしい。
伊東甲子太郎なんて長いし、面倒だから伊東で良いよな、あんなやつ。