幕末を駆けた桜
隊士の手前引き下がれないのか、僕を見て早口でそう言った。
そんな藤堂さんに、小さく口角を上げて笑みを浮かべてみせる。
その仲間とは、自分の事?
それとも伊東?
『お言葉ですが、藤堂さん。
僕は、伊東を“仲間”と思った事なんてありませんよ』
一度も噛む事なく。早口でまくしたてることもせずに、あくまでも冷静にそう言ってのける。
そんな僕に、藤堂さんは驚愕の表情を浮かべた。
『幾ら何でも、暴力で僕を追い出そうとする奴なんか仲間と思える訳がないだろ。
僕はまだしも…山南さんを追い出そうとするなんて、1億年早いんだよ』
そんな藤堂さんを無視して、藤堂さんの後ろ数歩下がった所から僕達を見ていた伊東に視線を移してそう言う。
僕の言葉に…主に後半の台詞に、隊士たちがざわついた。
僕の件を知らなかった組長方は台詞自体に驚いているようにも見える。
目の前の藤堂さんでさえ、振り返って伊東を見つめていた。
……勝機ありだな。
『僕が近藤さんを殺そうとしてるとか言ったな…?
さて…それは誰の事だろうね』
もう僕を止めることはない藤堂さんを通り過ぎ、刀に手を置きながら伊東との距離を詰める。
『御陵衛士…って言葉、聞き覚えあるか?』