幕末を駆けた桜


もう誰も、伊東の味方をしようとする組長は居なかった。

元々、隊士は皆僕の味方だったのだから、さすがに伊東も、どちらが優位に立っているのか認めざるおえない。



『山南さんを追い詰め脱走させて切腹させようとし、僕をここから追い出そうとした。

その上、藤堂さんを御陵衛士に引き込んで近藤さん暗殺計画を企てようとした』



全ての計画を僕に暴露され、なぜ知っているのかと僕を見つめる。



『神楽真白、お前の噂はここに来る前から聞いていた。
だから、警戒していたんだ。

長州に一月も囚われながら無傷で帰還し、計画を全て悟って早急に山南を八木邸へと送った』


『ああ。お前が山南さんを追い出そうとしている事はすぐにわかったからな』


『何故、敵対しているはずの八木邸に?』



これで最後になるからとでも言いたげに、オネエ言葉を外して僕に質問攻めする伊東を眉間にしわを寄せながら睨みつける。


何を言っているんだ、こいつは。
八木邸と、前川邸が対立しているだと?


『鴨さんになら、任せられる』



一月ちょっとしか居なかったお前に、新撰組の何が分かる。

仲を崩す、権利がある。


『鴨さん程、新撰組を思ってる人間を僕は知らない。

お前が新撰組を壊そうとしているのなら、黙ってるわけ無いだろう』



ギロリ、と。
伊東を睨みつけて声を低くし威嚇するようにそういう。

鴨さん達を馬鹿にするのも、新撰組の仲を知った様に話すことも気に入らない。

元々気に入らなかったが、この一瞬でましたような気がする。



『……土方、主はこやつをどう処する?』



今にも伊東に斬りかかりそうだった僕の体を抑え、鴨さんが土方にそう聞く。


その言葉を向けられた土方に、今度は皆の視線が集中した。


近藤さんは、何も言わずにただ土方を見て事の成り行きを見守って居た。



『伊東甲子太郎、及び…この一月で入って来たもの全て脱退に処する』



土方のその決断に反論するものは誰も居なかった。





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