幕末を駆けた桜
その桂の一言で、この部屋の温度がまるで数度下がったかのような感覚に襲われる。
近藤さんも、鴨さんも何も言わない。
桂は……勿論、坂本や高杉もそんな彼らを見つめるだけだ。
どのくらい、時間が経ったのだろうか。
実際には、それほど長くはなかったのかもしれないが、殺気に満ちたこの部屋にいてはどうしても1秒が1分にも感じられる。
『……既に、見切りはつけた』
一言一言、区切るように、慎重に言葉を発した近藤さんにより、長い沈黙が破られる。
そして、その近藤さんの言葉を聞いた桂達は、薄っすらと口角を上げ頷いた。
土方も沖田も、何も口出しはしない。
この話はきっと、彼らの中で終止符が打たれ、本当に見切りのついた事なのだろう。
『充分話し合った結果だ。
現幕府では、到底外国に太刀打ちできる力は存在しない。
わし等新選組は家族同然だからな。
誰1人として、かけることは許さない。
故に、守る力も尊厳も衰えたと感じさせられる幕府には……これ以上、ついて行くのはやめた』
近藤さんの言葉を継いで、鴨さんが扇子を仰ぎながらそう言った。
それはいつも僕が見ている鴨さんではなく、新選組局長としての、芹沢鴨の姿であった。
『真白君にも、教えられたしな』
口元に笑みを浮かべて目を細めた近藤さんにそう言われ、おもわず目を見開いて固まってしまう。
『近藤さん……』