幕末を駆けた桜
『沖田さん、みたらし団子10本は多くないですか』
『そうでもだよ?』
サラッと、なんでもないことのようにそう言った沖田さんにため息が漏れた。
この人の胃袋は、きっと僕が思っている大きさの何倍もでかいんだろう。
暖かいお茶をすすって、一息ついてから店を見渡した時だった。
暖簾が動き、店の中に誰か入って来るのが見えた。
……待て。
こんな事ってあるのか…⁉︎
店に入ってきた人を見て、思わず目を見開いた。
その男は、この時代の者らしからず刀の他に、短刀ではなく腰に拳銃を携帯していた。
そして、その男は店に入るなり店の中を見渡し、多分…僕を見つけた。
多分…なのは、目があった瞬間に僕が目をそらしたからだ。
まずい。
この状況は、非常にまずい。
きっと、沖田さんもあいつの名前は知っていても顔までは知らないはずだ。
だが、あいつは違う。
敵になりうるものの顔くらい覚えておく者だ。
その敵となるものと一緒に座っている僕を見つけたあいつは、眉間にしわを寄せて、通路を挟んで隣に座った。