幕末を駆けた桜
『先に目をつけたのは俺だ』
『それでも、手に入れたのは僕達ですから』
2人の間に火花が散っているように見えるのは、絶対に気のせいじゃない。
だが、気のせいだと思いたいこの気持ちは、多分世にいう現実逃避だ。
『僕は、壬生浪士組を抜けるつもりはない。
誘ってくれたのは嬉しいがな。
僕には、それ以上に近藤さんをはじめとする壬生浪士組の皆に恩がある』
もう少し…あと少しで、壬生浪士組が大きく揺れる日が来る。
その日まで…いや、彼らが関わる全ての出来事を終わらすことが出来るまで、僕は壬生浪士組から抜ける気は無い。
『……そうか。
お前のその頭と強さがあれば、大抵のことは容易にすみそうだと思ったんだがな』
『何故そう思う?』
話す仲とは言え、会ったばかりの…それも、2回しか面識のない相手にどうしてそんなこと思えるんだ。
『理由はねえよ? でも、俺達が必要としているものを持ってる気がする』
僕の目を見てそう言い切った坂本から、気まずくなって視線を逸らした。
隣で少し笑った気配がしたが、無視して最後の1つの餡蜜に手を伸ばした。