俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集
まだ早い時間帯、帰宅組に飲み会組、通りを歩く人も少なくない。
俺の声に驚いて、意に反してこちらに注目を集めてしまった。
周りから感嘆の声が上がる。
「うっわ、可愛くね?」
「ヤバイでしょ」
「きゃーーあの子可愛いねぇ」
「あんな子いるんだねー」
「あ、あの店入っちゃう?」
「いーねー」
思わず杏の手を引っ張って、腕の中に抱き寄せた。誰にも見られないように。
「き、恭一君?」
胸のなかで慌てる声がする。
なんだよ。
見るなよ。
もう、本当俺、情けない。
深呼吸して杏と向き合う。
じゃないとこの勝手な独占欲で昨日の二の舞に。
頑張れ、俺。
「……杏、俺も一緒いい?」
「はい!あ、あの……」
「ん?」
「い、いえ。こっちです」
少しぎこちなさが残るも俺の手を握って歩き出す。仕方ないよな、昨日あんな事になったままだったし。
でも、手を繋いでくれた。
良かった。マジで。
なんかもうそれだけで俺の不安が少しずつ消化されていく。
珍しく個室で飲んでいたらしく、座敷に上がって襖を開けると……
「なんでキヨがいるんだよ」
目の前の華さんの横にキヨが座っていた。
おい。
どういうことだよ。
一気に機嫌の悪くなった俺に呆れたように華さんから声がかかった。
「コラコラ、落ち着きなさいよ」
「華さん、なんだよこれ」
「偶然会ったのよ、いいじゃない」
「だからって、杏、いいのか?」
華さんとキヨの向かい側の席に杏を座らせ、隣に俺も座る。
目はキヨを威嚇しっぱなしだ。
「恭一君、大丈夫ですよ。キヨさんと仲良くなったんです!」
ニコニコとキヨと「ねーー」と笑い会う。
なんだよそれ。
「おいキヨ。何考えてんだよ」
「失礼ね、もう何もしてないわよ」
本当かよ。