俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集
『俺の女』なんて初めて言ったかも。
今はまだ俺の彼女なんだけど、彼女っていう言葉じゃ足りなくて。
何て言うかな、俺の、なんだよね。
女、っていうとなんとなく乱暴だけど心情的にはこっちなんだよね。
独占欲っていうか。
誰になんて言われようが『俺の』なんだよ。

「き、恭一君。言い方が素になっていますが?」

ちょっと慌てて今だにスーツの裾をツンツンしながら杏が心配する声をあげた。

「チッ、いいんだよ。知らねぇよこんな奴ら」
苛立ちを露にして睨みあげた。

「ねぇ、行こう?」
「う、うん」

そそくさと俺たちの前から消えた二人にため息を付き、せっかくの杏との待ち合わせで楽しみにしていた気持ちが下降する。
目に見えて杏の悄気た気持ちも分かってしまう。
それでも、と気持ちを奮い立たせて杏に悲しい思いをさせたままではワンコ王子の名がすたる。
それに機嫌を直してもらってラブラブしたい。

「杏?ねぇ、せっかくだから言ってよ」

何だか分かってなさそうな杏に甘えた声をだしておねだりする。

「なぁ、言ってよ。楽しみにしてたんだよね。ほら、何て言うんだった?」

楽しみにしていた待ち合わせを、あんな奴らのために嫌な思い出にしたくない。

「今日は『待ち合わせ』だったんだろ?」

そこまで言うと本来の目的を思い出したのか、ピクンと体を跳ねさせてじわじわと頬を染めていった。

ゴクン、と意を決したように唾をのみ込んだ音まで聞こえる。
ハハハッ、どんだけ緊張してんだよ。

中々最初の一言が出てこない。

「杏?」
優しく宥めるように誘導して、再度「んっ?」と声をかけた。

「………………き、恭一君。
ま、ままままままま待った?」

まが多すぎる。
吃り過ぎ。

「ブハッ。今来たとこだよ。大丈夫、待ってないよ」

杏の顔に幸せそうな笑顔が戻る。
良かった。
せっかくのデートなんだ。
楽しもうな。

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