俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集

足音を消して階段を上がりきる前に、息を潜めて会話を盗み聞く。


「うん、退くからさ、今度一緒にご飯食べに行かない?」
「二人だと緊張する?じゃあ、俺も誰か誘っていくからさ、笠原さんも誰か誘ってさ、2対2でどう?」
「笠原さんて、可愛いよね。名前も可愛いし。杏ちゃん、って呼んでいいかな?」


ベラベラ話し続ける男の台詞に沸々と怒りが沸いてきて。


「はっ?」
「えっ?」
「いや、」
「あのっ、困ります!」


話す隙すら与えてくれない男に声だけで困惑しているのが分かる。
その困り顔すら可愛すぎて堪んない。
そんな野郎に見せるなよ。

怒鳴り込む気持ちをなんとか押さえこんで、杏のために出来るだけスマートに二人の前に姿を出した。

「杏。遅いから迎えに来た。お昼終わっちゃう、行こう?」

杏の話し方から、こいつはきっと先輩で。
感情のまま俺が怒鳴り込んだりしてしまったら、可愛い杏はきっと、これからこいつと俺の関係を気にしてしまうだろう。

俺からしたらこんな奴、仲良くなる気もねぇからどうでもいいのに。
でも杏に心配なんてさせたくない。

杏のためだ。

「あっ、お疲れ様です。何かありました?」
「杏?プリンあった?」


いかにも今、来たように。
いかにも今、気づいたように。


杏に微笑みかけて、相手の男にもワンコの顔して問いかけた。
『俺のに手を出すなよ』
そう顔に貼り付けて。

目は口ほどに物を言う。

本当、いい言葉だよな。

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